データより「感覚」優先。入社後に直面した非科学的マネジメントへの苦悩
導入:データ活用を期待して入社したが、現実は「感覚」優先だった
私は、前職でデータに基づいた意思決定の重要性を痛感し、よりデータドリブンな組織文化を持つ企業への転職を志望しました。面接では、データ活用推進の取り組みについて語られ、その言葉を信じて入社を決意いたしました。しかし、実際に入社して配属された部署で直面したのは、データや事実よりも、特定の人物の経験や「なんとなく」といった主観的な感覚が優先されるマネジメントスタイルでした。
この記事では、私がこの環境下でマネージャーとして直面した具体的な失敗経験と、そこから得られた教訓を率直に語ります。読者の皆様が、面接での情報収集や入社後の状況判断において、同様の落とし穴を避けるための反面教師として、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
失敗の詳細:具体的な根拠が全く通じなかった現実
入社後、私はチームの生産性向上や新しい施策の導入を担当することになりました。前職での経験から、まずは現状を正確に把握するためにデータ収集・分析を行い、その結果に基づいた具体的な提案を準備しました。例えば、ある業務プロセスに明らかなボトルネックがあり、データ分析の結果、特定のツールの導入が効果的であると結論づけました。投資対効果も詳細に算出し、客観的な根拠に基づいて提案いたしました。
しかし、その提案はあっさりと却下されました。却下の理由は、「以前に似たようなことをやったがうまくいかなかった」「なんとなくこのツールはうちの部署に合わない気がする」「個人的には現状のやり方で問題ないと思っている」といった、極めて主観的で感覚的なものばかりでした。データや論理的な説明は全く考慮されず、ただ「感覚」で判断されてしまったのです。
こうした状況は一度きりではありませんでした。部下の評価においても、明確な目標達成度やプロセスにおける貢献よりも、上司個人の好き嫌いや、その日の気分、印象といった要素が大きく影響しているように見受けられました。具体的な成果を上げていても正当に評価されず、逆に表面的なコミュニケーション能力や愛想の良さが評価される傾向が強くありました。
マネージャーとして、チームメンバーに対して目標設定や評価の根拠を明確に説明することが極めて困難でした。なぜデータに基づいた合理的な判断がされないのか、上層部に問いかけても曖昧な回答しか得られず、次第にチームからの信頼も失っていくように感じました。「言っても無駄」「データは意味がない」という諦めムードが蔓延し、チームのモチベーションは著しく低下していきました。私自身も、客観的な根拠を示しても通じない環境で、マネジメントの方向性を見失い、無力感に苛まれる日々でした。
原因分析:表面的な情報と組織文化の深層
なぜ、面接で語られた「データ活用推進」という言葉と、入社後の現実がこれほどまでに乖離していたのでしょうか。原因は複数考えられます。
まず、最も大きな要因は、企業の組織文化の深層にありました。表向きは新しいことやデータ活用に関心があるように見えましたが、実際には長年の慣習や、特定のキーパーソンによる主観的な意思決定に強く依存する体質が根付いていました。過去の「成功体験」(実際には偶然や特定の状況下でのもの)への固執が強く、新しいアプローチやデータに基づいた変化を恐れる傾向がありました。
次に、情報収集の甘さです。面接時に「データ活用」について質問した際に、抽象的な回答しか得られなかったにも関わらず、具体的な事例や、データに基づいた意思決定プロセスがどのように行われているか、といった深い部分まで掘り下げて質問しませんでした。現場の社員や、実際にデータに触れているであろう部署の人間と話す機会を設けるべきでした。
また、私自身の適応力の不足も否めません。データが重視されない環境で、データという「正論」だけを押し通そうとしすぎたのかもしれません。組織の慣習や人間関係のパワーバランスを理解し、データ以外の方法、例えば信頼関係の構築や、小さな成功体験を積み重ねることで徐々に影響力を拡大していく、といった柔軟なアプローチが不足していました。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び):見えない文化を見抜く目
この失敗から得られた最も重要な教訓は、企業の「文化」や「意思決定プロセス」は、面接での説明や表面的な情報だけでは決して分からないということです。特にマネージャーとして入社する場合、どのような基準で物事が決められ、どのように評価されるのか、といった「見えないルール」や「感覚」が、実際の働きやすさや成果に大きく影響します。
反面教師として、次に活かすべき点は以下の通りです。
- 面接での具体的な質問の重要性: 面接官だけでなく、現場や他部署の社員と話す機会を強く求め、具体的な意思決定プロセスや、データ・情報の活用状況について、具体的なエピソードを聞き出す努力が必要です。「データドリブン」と謳っていても、それが単なるスローガンなのか、本当に文化として根付いているのかを見極める質問を準備すべきです。
- 組織文化の兆候を見逃さない: 入社後、早い段階で「感覚」で物事が決まる兆候や、非合理的な慣習がないか注意深く観察すること。単なる個人的な好き嫌いではなく、組織構造や過去の経緯が原因である場合もあります。
- 異なるアプローチの習得: データや論理だけでは動かない組織があることを理解し、人間関係の構築、信頼性の確立、小さな成功事例による実績作りなど、多様な手法で変革を試みる柔軟性を持つこと。特にマネージャーは、チームを守り、導くために、様々な角度からのアプローチが必要です。
- 自身の価値観との照合: 自身がどのような環境で能力を発揮できるのか、データに基づいた合理性を重視するのか、それともウェットな人間関係や非公式なルールへの適応を得意とするのか、自身のキャリアにおける優先順位を再確認すること。
結論/まとめ:表面だけでなく「意思決定の質」を見極める
入社後に直面した「データより感覚」優先のマネジメント環境は、私にとって大きな挫折経験となりました。それは単に仕事のやり方の問題だけでなく、自身のプロフェッショナリズムやキャリアプランの根幹を揺るがすものでした。
この経験から強く学んだのは、転職活動において企業のウェブサイトや求人票に書かれている言葉だけでなく、その組織の「意思決定の質」や「文化」の深層を見抜くことの重要性です。特にマネージャーとして、部下やチームを率いる立場になるからこそ、どのような基準で物事が決まり、どのように評価が行われるのかは、極めて重要な情報となります。
データ活用を謳っている企業でも、その実態は様々です。表面的な情報に惑わされず、企業のリアルな姿を多角的に見極める努力こそが、転職後のミスマッチを防ぎ、次回のキャリアを成功させるための鍵となることを痛感しています。