入社後、マネージャーとして直面した「リソース不足」という名の見えない壁
はじめに:期待と現実のギャップ、リソース不足という見えない壁
転職後、新しい組織でマネージャーとして着任し、大きな期待を寄せられることは、やりがいを感じる瞬間の一つです。しかし、その期待される成果に対して、必要なリソース(予算、人員、ツール、権限、情報など)が絶望的に不足している状況に直面した場合、どうなるでしょうか。私の経験は、まさにその「リソース不足」という名の見えない壁に阻まれ、目標達成はおろか、日々の業務すら困難に陥った失敗談です。
この体験談は、表面的な魅力や高い期待値だけで転職先を決定することの危険性を示唆しています。特に、マネージャーとして入社を検討されている方々にとって、期待される役割と、それを遂行するための現実的なリソースのバランスをいかに見抜くかという、重要な反面教師となるはずです。
失敗の詳細:絵に描いた餅と化した事業計画
私が転職したのは、ある中堅企業で新規事業部門の立ち上げを任されたときでした。面接では、将来性の高い市場での事業展開、十分な初期投資、そして優秀なメンバーを集める計画が熱く語られ、私は大いに魅力を感じて入社を決意しました。マネージャーとして、チームビルディングから事業戦略実行まで、裁量を持って推進できると期待していました。
しかし、入社してすぐに違和感を覚えました。まず、事業計画書に明記されていた予算が、着任してみると大幅に削減されていることが判明しました。必要なITツールの導入は凍結され、マーケティング予算も計画の数分の一しかありませんでした。さらに深刻だったのは、人員計画の遅延です。必要なスキルを持つ人材が採用基準を満たさない、あるいは採用できても入社時期が大幅に遅れるなど、計画通りにチームを構築できませんでした。
会議では常に理想論が語られる一方で、現場レベルでは基本的なリソースすら十分に供給されない状況でした。私はマネージャーとして、限られたリソースの中で何とか成果を出そうと奔走しました。部下たちには無理を強いることになり、彼らのモチベーションも低下していきました。上層部には予算や人員確保の必要性を再三訴えましたが、「今は我慢して成果を出せ」「工夫で乗り越えろ」といった精神論で片付けられるばかりでした。
結果として、当初計画していたスケジュールは完全に破綻し、設定された目標の達成は不可能となりました。事業は全く軌道に乗らず、私はマネージャーとしてのリーダーシップを発揮する機会すら与えられず、無力感に苛まれる日々でした。最終的には、事業そのものが縮小・凍結され、私のプロジェクトは失敗に終わりました。
原因分析:見抜けなかった「言うだけ」文化とデューデリジェンスの甘さ
この失敗の根本原因はいくつか考えられます。
まず、企業側の問題として、計画段階でのリソース見積もりが甘かったこと、あるいは計画そのものが実態を伴わない「絵に描いた餅」であった可能性が高いです。経営層と現場の間で情報共有や認識合わせが不足しており、無責任な目標設定が行われていたのかもしれません。また、「言行一致」しない企業文化、つまり、大きな目標や理想は語るものの、それを実現するための具体的な行動やリソース配分が伴わない体質も大きな要因でした。私の訴えが精神論で片付けられた背景には、このような文化があったと考えられます。
自身の問題点としては、転職前のデューデリジェンス(適正評価)が不十分であった点が挙げられます。面接時の華やかな説明や計画書の内容を鵜呑みにしてしまい、その実現可能性を深く掘り下げて確認しませんでした。特に、予算や人員計画といった具体的なリソースについて、決定プロセスや過去の実績、他部署の状況など、多角的に質問し、裏付けを取る努力が足りませんでした。楽観的に物事を捉えすぎたことも否めません。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び):リソースの実態を「疑ってかかる」視点の重要性
この苦い経験から得られた最も重要な教訓は、転職先の企業やポジションについて、「期待される成果」だけでなく、それを実現するための「現実的なリソース」が本当に確保されているのかを徹底的に見抜く必要がある、ということです。単に面接で語られる内容を信じるのではなく、ある程度「疑ってかかる」視点を持つことが重要です。
具体的には、以下のような点に注意を払うべきでした。
- 予算について: 初期投資額だけでなく、その予算の決定プロセス、使用用途の自由度、追加予算の獲得可能性、過去の予算実績などを具体的に質問し、数値で確認すること。
- 人員計画について: ポジション名だけでなく、必要なスキル、採用基準、採用活動の進捗状況、入社時期、チーム構成の具体像などを詳細に確認すること。紹介される予定のメンバーと実際に話す機会を設けることも有効です。
- 必要なツールやシステムについて: 現在の状況、導入予定の有無、導入スケジュール、決定権者、予算などを具体的に確認すること。古いシステムしかない場合は、それが業務にどう影響するかを想定すること。
- 意思決定プロセスと権限について: 誰が最終的な意思決定を行うのか、そのスピードはどの程度か、マネージャーとしての裁量はどこまであるのかを明確にすること。リソース配分に関する決定プロセスについても確認すべきです。
- 企業文化と過去の実績: 華々しい計画が語られる一方で、過去に同様の取り組みが成功しているか、失敗している場合はその原因は何かなどを探ることも重要です。可能であれば、現職社員や元社員(転職エージェントなどを通じて)から、社内の実情や経営層のリソース配分に関する考え方について情報を得ることも試みるべきです。
これらの情報は、表面的な面接だけでは得にくい場合があります。複数の面接官と話す機会を設ける、現場の社員とのカジュアル面談を希望する、企業が出しているプレスリリースやIR情報、口コミサイトなども参考にしながら、多角的に情報を収集・分析する姿勢が不可欠です。
結論:リソースは「成果」の前提条件
マネージャーとして期待される成果を出すためには、自身の能力や努力はもちろん必要ですが、それ以前に、適切なリソースが確保されていることが大前提となります。リソース不足は、どんなに優秀なマネージャーやチームであっても、目標達成を極めて困難にする、あるいは不可能にしてしまう構造的な問題です。
私の失敗経験は、転職活動において、提示される「期待」の裏側にある「リソースの実態」を冷静かつ厳しく見極めることの重要性を痛感させました。これから転職を考えている特にマネージャー層の皆さまには、私の経験を反面教師として、企業やポジションの「リソース健全性」を徹底的にチェックすることを強くお勧めします。それが、入社後の成功、そして自身のキャリアを守るための重要なステップとなるはずです。