入社した急成長企業で、組織の未成熟さに苦悩しマネジメントに失敗した体験談
導入:期待と現実、急成長企業の光と影
私が転職先に選んだのは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの急成長企業でした。面接で語られたビジョンや事業の伸びしろに魅力を感じ、これまで培ってきたマネジメント経験を活かし、組織の成長に貢献できると大きな期待を抱いて入社しました。しかし、そこで待っていたのは、私の想像を遥かに超える組織の「未成熟さ」でした。
入社後の私は、その混沌とした環境の中で自身のマネジメントスタイルを見失い、部下との関係構築にも苦労し、結果として期待された成果を上げることができませんでした。この経験は、私にとって大きな失敗であり、同時に「急成長」という言葉の裏に潜むリスクと、組織の実態を見抜くことの難しさを痛感させる反面教師となりました。この記事では、私がその急成長企業で経験したマネジメントの失敗を具体的に語り、同じような状況に陥らないための教訓を共有したいと思います。特に、組織の「勢い」だけでなく「基盤」を見極めることの重要性について考えていきます。
失敗の詳細:組織の混沌とマネージャーの孤立
入社直後、私は特定の部門のマネージャーとして着任しました。期待されていたのは、チームの生産性向上と、拡大する事業に対応するための組織体制の強化です。しかし、すぐに私は奇妙な現実に直面しました。
まず、明確な組織図や役割分担が曖昧でした。人の増加スピードに組織設計が追いついていないのです。私のチームのメンバーが、他のマネージャーからも異なる指示を受けたり、担当範囲が重複したり空白があったりする状況が頻繁に発生しました。さらに、意思決定プロセスも確立されておらず、特定のリーダーの発言でそれまでの決定が簡単に覆されることも少なくありませんでした。
情報共有も大きな課題でした。公式な会議体や共有ツールは形骸化しており、重要な情報は非公式なチャネルや、一部の人間関係の中でしか流通しないのです。私は常に情報不足を感じ、チームに適切な指示を出すことに困難を感じました。
マネージャーとしての私の役割も不明確でした。形式的には権限を与えられていましたが、実質的な意思決定は特定のトップ層に集中しており、私の提案や判断がなかなか通りませんでした。部下は混乱し、私への信頼も揺らぎ始めているように感じました。私もまた、本来の業務よりも、不明確な役割や情報不足に起因する社内調整や根回しに多くの時間を費やすことになり、疲弊していきました。
例えば、あるプロジェクトを推進しようとした際、担当範囲が曖昧な他部署との連携に時間を要し、さらに途中でトップ層からの鶴の一声でプロジェクトの方針が大きく変更された結果、それまでの準備が無駄になりました。部下からは不満の声が上がり、私のマネジメントに対する疑念が募るのを肌で感じました。私はこの混沌の中で、自身のマネジメントスタイルを確立できず、チームをまとめ上げることができませんでした。これが私の最大の失敗でした。
原因分析:なぜその失敗が起きてしまったのか
この失敗の根本原因は、企業側の「組織の未成熟さ」と、私自身の「入社前の見極め不足」および「適応力の欠如」が複合的に作用した結果だと分析しています。
企業側としては、事業の急成長に組織の整備が全く追いついていませんでした。明確な組織設計、役割分担、意思決定プロセス、情報共有の仕組みといった基本的な組織基盤が確立されていなかったのです。リーダーシップ層は事業推進には長けていましたが、組織マネジメントに関する知見や経験が不足していた可能性も考えられます。権限委譲も形式的で、実質的な責任と権限のバランスが取れていませんでした。
私自身の要因としては、入社前に企業の「勢い」や「ビジョン」といった表面的な部分に目を奪われすぎたことが挙げられます。組織構造や意思決定プロセス、情報共有文化といった、組織の「基盤」に関する重要な側面を十分に深掘りして確認しませんでした。「ベンチャーだから仕方ない」という甘い認識があったことも否めません。また、これまでのキャリアで比較的整備された組織でマネジメントを行ってきたため、混沌とした不確実性の高い環境下で、自身の役割を再定義し、柔軟に対応していく適応力が不足していたことも失敗の一因です。既存のマネジメントモデルや期待値に固執しすぎた結果、目の前の現実に対応できませんでした。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び)
この苦い経験から、私は多くの重要な教訓を得ました。今後の転職活動や、不確実性の高い環境でマネジメントを行う際に、反面教師とすべき学びは以下の通りです。
- 「急成長」の裏にある「組織の基盤」を見極める: 企業の成長性だけでなく、組織構造の明確さ、役割分担、意思決定プロセス、情報共有の方法など、組織の「基盤」に関する情報を可能な限り収集し、それが自身の求める環境や、マネージャーとして成果を出せる環境であるかを慎重に評価することが不可欠です。面接では、単に事業内容を聞くだけでなく、組織図やレポートライン、具体的な意思決定の事例、情報の共有方法などについて具体的に質問すべきです。
- 「柔軟性」「変化対応力」の実態を問う: 多くの企業が「柔軟性」「変化対応力」を重視すると言いますが、それが単なる「場当たり的な方針変更」や「役割の押し付け合い」を正当化する言葉になっていないかを見抜く必要があります。具体的にどのようなプロセスで意思決定が行われ、変化に対応しているのか、具体的なエピソードを聞き出すことが有効です。
- 不確実性の高い環境でのマネジメントスタイルを確立する: 組織が未成熟な環境では、与えられた役割や権限が曖昧である可能性があります。そのような状況下では、自身のリーダーシップで周囲を巻き込み、非公式な人間関係を通じて情報収集を行い、自ら積極的に役割を定義していく力が求められます。従来の組織モデルに固執せず、目の前の状況に応じて柔軟にマネジメントスタイルを変化させる準備が必要です。
- 自身の「混沌耐性」と「適応力」を客観的に評価する: 自身がどの程度の不確実性や曖昧さに耐えられるのか、そして新しい環境にどれだけ早く適応できるのかを客観的に評価することも重要です。自身のキャリアの優先順位が「安定した環境で成果を出すこと」なのか、「混沌とした中でも成長機会を掴むこと」なのかによって、選ぶべき企業は異なります。
結論/まとめ:見かけの勢いだけでなく、組織の実態を見極める目を養う
私が急成長企業で経験したマネジメントの失敗は、見かけの「勢い」や「成長性」だけでなく、組織の「基盤」がどれだけ整備されているかを見極めることの重要性を痛感させるものでした。特にマネージャーとして入社する場合、自身が責任を持つ範囲や権限、そしてチームや組織全体がスムーズに機能するための仕組みがどれだけ存在するかは、成果を出す上で極めて重要な要素となります。
不確実性の高い環境でのマネジメントは難易度が高いものです。しかし、このような環境だからこそ得られる学びや成長の機会も存在します。重要なのは、入社前に企業の組織的な実態を可能な限り深く理解し、自身の適性やキャリアプランと照らし合わせて慎重に判断することです。そして、もしそのような環境に身を置くことになった場合は、自身の役割を積極的に定義し、組織の混沌を乗り越えるための柔軟性と適応力を発揮する覚悟が必要です。私の失敗談が、読者の皆様がより良い転職を実現し、入社後のキャリアを成功させるための一助となれば幸いです。