現場との乖離に苦悩。本社指示に従った結果、チームから反感を買ったマネジメント失敗
はじめに
新たな環境での挑戦を求め、私はA社のB部門マネージャーとして転職いたしました。前職でのマネジメント経験や、本社と現場の連携強化への強い意欲を持って入社したのですが、そこで待っていたのは、現場の実態から大きく乖離した本社からの指示と、それによってチームの信頼を失うという苦い経験でした。
この記事では、私がどのようにして本社と現場の板挟みとなり、結果としてマネージャーとしての役割を果たすことができなくなったのか、その具体的な状況、原因、そしてそこから得られた教訓を赤裸々にお話しいたします。私の失敗が、読者の皆様が今後の転職活動や入社後のマネジメントにおいて、同様の過ちを避けるための反面教師となれば幸いです。
失敗の詳細:現場を疲弊させた本社指示と私の対応
A社は規模が大きく、本社機能と各事業拠点である現場との間に、物理的にも組織的にも距離がある会社でした。私が配属されたB部門は、まさにその現場の一つに位置していました。
入社後間もなく、本社から新たな業務プロセス導入と、それに基づく目標設定が通達されました。その内容は、現場の作業負荷や実情を十分に考慮しているとは言えないものでした。例えば、複雑なシステム操作を伴うレポート作成頻度の増加や、現場での顧客対応時間を削って行うべき新たな形式の会議設定などです。
現場のメンバーからは、すぐに戸惑いと不満の声が上がり始めました。「これは現場を知らない人間の考えたことだ」「この通りやったら、本来の業務が回らなくなる」「ただでさえ忙しいのに、これ以上何を増やせというのか」といった声が私の耳にも届きました。
私は本社と現場の間に立ち、双方の主張を聞こうと努めました。本社には現場の負荷や懸念事項を伝え、指示内容の見直しや猶予期間の設定を打診しました。しかし、本社からは「決定事項だ」「全社方針だから従ってもらうしかない」「現場の努力でカバーできるはずだ」といった回答しか得られませんでした。本社の指示遂行が私個人の評価にも直結するというプレッシャーもあり、私は最終的に本社の方針を全面的に受け入れ、現場にその指示を伝えることになりました。
現場メンバーに指示の背景や目的を説明しようとしましたが、彼らには「本社は現場の状況を理解していない」「マネージャーも結局は本社の言いなりだ」と映ってしまったようです。徐々に、チームミーティングでの発言は減り、私への直接的な相談や意見も少なくなりました。チームの雰囲気は悪化し、以前あった一体感や活気は失われていきました。
本来、マネージャーとしてチームを守り、パフォーマンスを最大化させるべき立場にありながら、私は本社からの指示を現場に押し付ける役割を担ってしまったのです。その結果、チームからの信頼は急速に失われ、私のマネジメントは完全に機能不全に陥りました。チームの士気は下がり、生産性も低下。結果として、当初設定された目標を達成することは不可能となりました。さらに数名のメンバーは、この状況に耐えかねて他部署への異動や転職を真剣に検討し始めたのです。
原因分析:なぜこの失敗は起きたのか
この失敗には、様々な要因が複雑に絡み合っていました。
まず、最も大きな要因の一つとして、本社と現場の間に存在する構造的な乖離が挙げられます。本社は全社最適な視点から戦略やプロセスを立案しますが、その過程で現場の具体的な業務フロー、人員体制、日々の課題といった実態が十分に把握されていなかった、あるいは把握されていても軽視されていた可能性が高いです。いわゆる「サイロ化」が進んでおり、部署間の情報共有や連携が不足していた組織構造そのものに問題がありました。
次に、本社側の強いトップダウン文化です。現場からのフィードバックを受け付けない、あるいは受け付けても方針を曲げないという姿勢は、現場の士気を著しく低下させ、私の立場を困難にしました。意思決定プロセスに現場の声が反映される仕組みが不十分であったことも原因です。
そして、私のマネージャーとしてのスキル不足とコミュニケーション不足も否めません。本社に対して、現場の状況をより説得力をもって伝え、方針変更を交渉する力、あるいは指示の受容可能な代替案を提示する力が足りませんでした。また、現場のメンバーに対して、なぜこのような指示が出たのか、私自身がどう考えているのか、これからどうしていきたいのか、といった点を丁寧に、かつ彼らの気持ちに寄り添う形で伝える努力が十分ではなかったと感じています。板挟みという難しい状況下で、チームの信頼を維持するための適切なコミュニケーション手法やリーダーシップを発揮できませんでした。
自身の評価を気にしすぎるあまり、本社の意向に沿うことを優先してしまった判断ミスもあったかもしれません。チームの信頼を得る前に、彼らが受け入れがたい指示を伝達する役割を担ってしまったタイミングの悪さも影響したと考えております。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び)
この失敗経験から、マネージャーとして、そして一人のビジネスパーソンとして、非常に重要な教訓を得ました。
まず、マネージャーは単なる上からの指示伝達者ではないということです。特に本社と現場のように物理的・組織的に距離がある環境では、双方の間に立ち、現場の実態を本社に伝え、本社の意図を現場に分かりやすく説明するという、高度な「橋渡し役」としての役割が求められます。この役割を放棄し、安易に上層部の指示をそのまま現場に押し付けるだけでは、チームからの信頼を得ることは不可能であり、マネジメントは破綻します。
次に、転職を検討する際には、組織構造や文化、意思決定プロセスを深く見極めることの重要性です。本社と現場の関係性、現場への権限委譲の度合い、現場の意見がどのように吸い上げられ、意思決定に反映されるのかといった点は、入社後の働きがいやマネジメントの難易度に大きく影響します。面接の機会などを活用し、これらの点について具体的な質問を投げかけ、自身の肌感覚と照らし合わせることが不可欠です。
また、困難な状況下であっても、チームとの継続的な対話と共感の努力を怠らないことが重要です。指示の内容が不合理に思えても、まずはチームの意見や感情に耳を傾け、共感を示す姿勢を見せること。そして、自身の置かれた状況や限界を正直に伝え、共に解決策を模索する姿勢を示すことが、チームからの信頼を維持・回復するための鍵となります。
自身の立場や権限の限界を見極める力も必要です。時に、マネージャー個人の力ではどうにもならない組織構造や文化の問題に直面することもあります。そのような場合、単独で抱え込まず、上層部に対して粘り強く改善提案を行ったり、人事部門や他部署の協力を仰いだりするなど、周囲を巻き込む働きかけも重要です。
結論
本社と現場の乖離が大きい組織におけるマネジメントは、多くの困難を伴います。私の場合は、組織構造の問題、本社のトップダウン文化、そして自身のコミュニケーション不足が複合的に重なり、結果としてチームの信頼を失い、マネジメントに失敗いたしました。
この経験は私にとって大きな痛みを伴うものでしたが、「マネージャーがいかにして組織とチームの間の橋渡し役となるべきか」「組織構造や文化が個人のパフォーマンスやチームの健全性にいかに影響するか」といった点について、深い学びを得る機会となりました。
読者の皆様には、私の体験を反面教師として、転職先を選ぶ際には、組織の構造や文化、特に本社と現場の関係性について慎重に情報収集されることをお勧めいたします。そして、もし入社後に本社と現場の板挟みになるような状況に直面した際には、安易に上層部の指示を押し付けるのではなく、チームの声を真摯に聞き、対話を重ね、信頼を失わないための努力を続けることの重要性を心に留めていただければと思います。