面接で伝えられた職務内容と、実際の業務が大きく乖離していた失敗
はじめに
転職活動において、面接や採用担当者とのコミュニケーションを通じて、入社後の職務内容や期待される役割について情報を得ます。この情報は、自身のキャリアプランやスキルとの適合性を判断する上で極めて重要です。しかし、残念ながら、事前に描いていた役割と、入社後に実際に任される業務内容との間に大きな乖離が生じることがあります。
本記事では、私が過去の転職で経験した、この「職務内容・役割のギャップ」による失敗談を赤裸々に語ります。なぜこのようなギャップが生じたのか、それが組織や自身のキャリアにどのような影響を与えたのかを分析し、読者の皆様が同様の失敗を避けるための「反面教師」として、具体的な教訓をお伝えできれば幸いです。特に、マネージャー層の皆様にとって、自身の役割の不明確さがチームや部下に与える影響という視点も踏まえながら解説いたします。
失敗の詳細:期待された「新規事業の旗振り役」が、実際は「既存事業のコスト削減担当」だった
当時の私は、前職で培った特定の領域における専門知識とマネジメント経験を活かし、新しいチャレンジができる環境を求めて転職活動をしていました。複数の企業から内定をいただいた中で、最終的にA社を選んだのは、面接官(当時の直属の上司となる人物や役員)から熱心に語られた「今後注力していく新規事業の立ち上げにおいて、あなたの専門性とリーダーシップが不可欠だ」という言葉に強い魅力を感じたからです。
具体的な話としては、私が中心となって新しいサービス開発チームを率い、市場調査から企画、開発、ローンチまでを一貫してリードするというものでした。私の経験がまさに活かせる分野であり、自身のキャリアの次なるステップとしても非常にエキサイティングに感じられました。提示されたタイトルも「〇〇事業部 マネージャー」であり、裁量権をもってチームを動かせる期待を抱いていました。
しかし、入社初日から様子がおかしいと感じ始めました。配属された部署は、面接で聞いていた新規事業を担う部署ではなく、既存の収益事業を運営する部署でした。そして、私の席が準備されていたのは、新規事業関連のミーティングルームではなく、既存事業のチームの一角でした。
さらに、実際の業務内容は、新規事業の立ち上げとは全く異なるものでした。私が最初にアサインされたタスクは、既存事業における運用コストの徹底的な見直しと削減、そして非効率な業務プロセスの改善でした。もちろん、コスト削減や業務効率化もマネージャーとして必要なスキルですが、面接で語られていた「新しいサービスを創り出す」という華やかなイメージとはかけ離れていました。
上司に確認したところ、「新規事業はまだ計画段階であり、まずは既存事業の基盤を固めることが喫緊の課題だ」「あなたの分析力と実行力は、まずはこちらでこそ活きる」といった説明がありました。もちろん、企業側の状況変化もある程度は理解できます。しかし、面接時にあれほど熱心に語られ、私がその期待に応えようと入社を決意した「新規事業の旗振り役」という役割が、入社後にまるでなかったかのような扱いに変わってしまったことに、大きな失望と戸惑いを感じました。
チームメンバーも、私がどのような役割で入社したのかを正確に把握していないようでした。「新しい方が来たけど、何をする人なんだろう?」という雰囲気を感じ取り、マネージャーとしての求心力を得る上でも困難を感じました。事前に聞いていた役割と違うために、部下に指示を出す際にも自身の位置づけが曖昧になり、自信を持って指示を出しにくい状況も生まれました。
原因分析:企業側のコミュニケーション不足と、自身の情報収集・確認不足
この失敗の原因は、複数の要因が複合的に絡み合っていたと考えています。
第一に、企業側の採用プロセスにおける情報伝達の不備、あるいは意図的な情報のフィルタリングが挙げられます。面接官が描いていた理想像や、企業として目指したい方向性が、現場の現実や短期的な経営課題と乖離していた可能性があります。あるいは、優秀な人材を確保するために、実態よりも魅力的な役割を提示したのかもしれません。採用担当者と現場の連携が十分に取れていなかった可能性も否定できません。いずれにせよ、入社後の具体的な役割や優先順位に関する情報が、候補者である私に正確かつ正直に伝えられていなかったことは問題です。
第二に、組織内部の不確実性や急激な方針変更も原因となり得ます。私が転職活動をしていた時期と入社時期の間で、経営層の方針転換や市場環境の変化により、事業計画や組織体制が大きく変わってしまった可能性も考えられます。しかし、その場合でも、入社前に候補者へ正確な状況を伝えるべき責任は企業側にあります。
第三に、私自身の情報収集と確認の甘さです。面接時の華やかな話や期待される役割に心が躍り、その裏側にある組織の現実や課題、あるいは役割変更のリスクについて深く掘り下げて確認することを怠りました。特に、マネージャーとして入社する場合、与えられる権限の範囲、関わるチームや部署、短期的な目標設定、そしてそれらを決定するプロセスなど、より具体的な情報を得るための質問を十分に行うべきでした。「新規事業」というキーワードにばかり注目し、既存事業の状況や組織全体の課題といった、地に足の着いた情報収集がおろそかになっていました。また、入社条件やオファーレターに記載された職務内容が、面接で聞いた話と完全に一致しているか、曖昧な表現はないかなどを、より慎重に確認すべきでした。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び):曖昧さを徹底的に排除する質問力
この苦い経験から得られた最も重要な教訓は、「面接時の魅力的な話に踊らされず、入社後の職務内容や役割に関する曖昧さを徹底的に排除するための質問を重ねることの重要性」です。
特にマネージャーとして転職を考える際には、以下の点を重点的に確認すべきだと痛感しました。
- 具体的な業務内容と割合: 「新規事業の推進」といった抽象的な表現だけでなく、「具体的にどのようなフェーズで、どのようなタスクに、どれくらいの時間を割くことになるのか」「既存事業との関わりはどの程度か」といった具体的な業務内容とその時間配分について掘り下げて質問します。
- 期待される成果と短期的な目標: 入社後3ヶ月、6ヶ月、1年で期待される具体的な成果や目標について確認します。「新規事業を成功させる」だけでなく、「いつまでにどのような状態を目指すのか」「それを測る指標(KPI)は何か」などを明確にします。
- 与えられる権限と責任範囲: マネージャーとして、予算やリソースに対する権限、部下の人事評価への関与度、意思決定プロセスにおける自身の位置づけなど、具体的な権限と責任範囲を確認します。
- 関連部署との連携: 自身の役割が他のどの部署と連携する必要があり、その連携はどのように行われるのか、あるいは過去に連携上の課題はなかったかなどを質問します。
- 組織構造とレポートライン: 誰にレポートし、どのような会議体に参加するのか、組織全体の中での自身のポジションや影響力を把握します。
- ビジネス環境の変化リスク: 企業や事業を取り巻く環境の変化によって、自身の役割や目標が変更される可能性はあるか、その際のコミュニケーションプロセスはどうなっているのか、といったリスクについても質問できると良いでしょう。
これらの情報は、面接官だけでなく、可能であれば実際に一緒に働くことになる現場のメンバーや、異なる部署の人物からも話を聞くことで、より多角的に reality check を行うことができます。カジュアル面談やリファレンスチェックの機会があれば、積極的に活用すべきです。
また、オファーレターに記載されている職務内容が、面接で聞いた話と合致しているかを慎重に確認し、もし不明瞭な点があれば、サインする前に必ず質問してクリアにすることが不可欠です。
結論
入社後の職務内容や役割のギャップは、転職の失敗の中でも特に自身のキャリア形成に大きな影響を与える可能性があります。私の経験は、企業側の説明を鵜呑みにせず、自身の能動的な情報収集と、曖昧さを許さない徹底的な確認がいかに重要かを教えてくれました。
特にマネージャーとして入社する場合、自身の役割の不明確さは、チームのパフォーマンスや部下のモチベーションにも悪影響を及ぼしかねません。今後の転職活動においては、本記事で触れた教訓を活かし、入社後に直面する可能性のあるギャップを可能な限り小さくするための努力が不可欠です。
これから転職を考えている皆様、あるいは現在入社後のギャップに悩んでいる皆様にとって、本記事が反面教師として少しでもお役に立てれば幸いです。転職活動は情報の非対称性が大きいプロセスですが、賢く、粘り強く情報を収集・確認することで、失敗のリスクを減らすことができるはずです。