私の転職ブラックヒストリー

予算獲得に失敗。入社後のマネージャーが直面した、見えない承認の壁

Tags: 予算承認, マネージャー, 転職失敗, 組織文化, 承認プロセス

はじめに

転職先の企業で新たなマネージャー職に就き、意欲的に業務改善や新規施策を提案したものの、必要な予算がまったく獲得できずに頓挫してしまった経験についてお話しします。これは単に予算が少なかったという話ではなく、入社前に見抜けなかった企業の意思決定プロセス、特に予算承認プロセスの非効率性と不透明さが、マネージャーとしての私の職務遂行を著しく阻害し、大きな失敗につながったという体験談です。

この失敗から得られた教訓は、今後の転職活動、特にマネージャー以上のポジションを目指す方々にとって、反面教師となるでしょう。企業の「見えない壁」にどう気づき、どう対処すべきか、私の苦い経験を通じてお伝えしたいと思います。

失敗の詳細:複雑怪奇な予算承認プロセス

前職で一定の成果を上げ、より裁量のあるポジションを求めて転職した私は、新しい会社でマーケティング部門のマネージャーとして着任しました。入社前の面接では、部門強化のために積極的な投資を行っていくという話を聞いており、大いに期待していました。

入社後、私はすぐに現状分析を行い、部門の課題を解決するための具体的な施策をいくつか立案しました。デジタルマーケティングツールの導入、外部パートナーとの連携強化、新しい人材採用など、いずれも部門の生産性向上と成長に不可欠と考えたもので、それには当然ながら予算が必要でした。

提案書を作成し、まずは直属の上司に提出しました。上司からは建設的なフィードバックを受け、承認を得ることができました。しかし、ここからが長い道のりの始まりでした。上司の承認はあくまで第一段階に過ぎず、次に経理部門、経営企画部門、そして複数名の役員による承認が必要だと言われたのです。

言われるがままに書類を提出し、関連部署への説明を始めたのですが、そこで直面したのは、想像を絶する非効率性と不透明さでした。

まず、誰が最終的な承認者なのか、その基準は何かといった情報が明確に共有されていませんでした。経理部門からはコスト削減の観点から厳しく問われ、経営企画部門からは戦略との整合性を、役員からはそれぞれの専門分野(技術、営業など)からの質問が飛んできました。同じ内容の説明を何度も繰り返す必要がありましたが、フィードバックは断片的で、全体像が見えませんでした。

さらに、承認プロセスには非公式な「根回し」が必要であることが後から分かりました。特定の役員や関連部署のキーパーソンに事前に個別相談し、賛同を得ておく必要があるというのです。しかし、誰に、いつ、どのように相談すれば良いのかといった情報は、公式には一切示されていませんでした。社歴の長いメンバーから断片的に情報収集するしかありませんでした。

結果として、当初想定していた承認期間を大幅に超過しても、私の提案はペンディングされたままの状態が続きました。その間に市場の状況は変化し、提案の鮮度が失われていきました。結局、複数の提案のうち、承認されたのは予算規模が極めて小さいもの一つだけで、しかも承認が下りたのは半年以上経過してからでした。部門に必要な投資はできず、計画は大幅に遅延し、マネージャーとしての私のリーダーシップも揺らぎ始めました。

原因分析:なぜ予算獲得に失敗したのか

この失敗の根本原因は、多岐にわたる企業の構造的な問題と、私自身の準備不足にありました。

第一に、企業の意思決定プロセスの非効率性と不透明さです。承認ルートが複雑で、権限が分散しており、最終的な承認者や判断基準が明確ではありませんでした。これは、責任の所在が曖昧になり、誰もがリスクを取りたがらないという組織文化の表れでもありました。

第二に、部署間の連携不足と壁です。各部署がサイロ化しており、全体最適な視点よりも自己の部門の利益や立場を優先する傾向が強く見られました。私の提案に対するフィードバックも、自部門の都合に基づいたものが多く、全社的な視点での建設的な議論が難しい状況でした。

第三に、非公式なルールや社内政治の重要性です。公式なプロセスだけでは物事が進まず、非公式な場での根回しや関係構築が不可欠であるにも関わらず、その情報が新任者には全く共有されない構造でした。これは、社歴の長いメンバーが有利になり、新しい風を入れようとする人間が排除されやすい閉鎖的な文化を示していました。

そして、私自身の問題としては、入社前の情報収集の甘さがありました。面接の場で「裁量がある」「投資を積極化する」といった言葉を鵜呑みにしてしまい、具体的な意思決定プロセス、特に予算承認のフローや実態について、深く突っ込んで質問しなかった点です。また、入社後も、早い段階で社内のキーパーソンや非公式な情報網を構築できなかったことも、承認プロセスの突破に失敗した一因です。マネージャーとしては、社内での立ち回り方やソフトスキルも重要な能力ですが、その点で経験不足だったと言えます。

そこから得られた教訓(反面教師としての学び)

この苦い経験から、今後の転職活動や入社後の立ち上がりにおいて、重要な教訓を学びました。

まず、転職活動中の企業分析においては、事業内容や表面的な組織図だけでなく、意思決定のプロセス、特に予算や重要施策の承認フローについて、可能な限り具体的に情報収集することの重要性を痛感しました。面接の場で、「どのようなプロセスで予算は承認されますか?」「新しい提案はどのように評価・決定されますか?」「過去にマネージャー主導で実現した施策の例はありますか?」といった質問をすることで、企業のカルチャーや権限委譲の実態にある程度迫ることができるはずです。社員と話す機会があれば、非公式な情報を含めて聞き出す努力も必要です。

次に、入社後の立ち上がりにおいて、早期に社内の「見えない壁」や非公式なルールを見抜く洞察力と、それを乗り越えるための関係構築能力が極めて重要であるということです。単に自分の職務を遂行するだけでなく、キーパーソンが誰か、影響力のある部署はどこか、非公式な承認ルートは存在するかなどを観察し、積極的にコミュニケーションをとる必要があります。困ったときに助けてくれる味方を社内に作ることの重要性も学びました。

さらに、提案を行う際には、単に論理的に正しいだけでなく、社内の各ステークホルダーが何を重視しているのかを理解し、彼らの関心や懸念に寄り添った形で説明を工夫する必要があります。経理部門には費用対効果を、経営企画には戦略への貢献度を、現場には導入メリットを、といった具合に、相手に合わせたメッセージングが求められます。そして、一度で承認されなくても、粘り強く、時には戦略的にアプローチを修正していく根気も必要です。

最後に、もし入社後にこのような非効率で不透明な組織構造が明らかになり、自身の職務遂行が著しく困難であると判断した場合、早めに次のキャリアについて考え始めることも、自身のキャリアを守る上で必要な判断となりうるということです。もちろん、改善のために努力することは重要ですが、組織構造や文化は個人の力では容易に変えられない場合が多いのも事実です。

結論:見えない壁は入社前に見抜く努力を

入社後に直面する「見えない壁」、特に意思決定や予算承認プロセスの非効率性は、マネージャーの職務遂行能力に直接影響します。私の失敗体験は、この見えない壁を事前に見抜けず、対処法も知らなかったがゆえに発生しました。

この反面教師から学び、転職活動の段階から企業の「内部事情」に迫る質問をすること、そして入社後は早期に社内構造と人間関係を理解し、戦略的に立ち回ることの重要性を理解していただければ幸いです。表面的な情報だけでなく、意思決定の「リアル」を見抜く力が、失敗しない転職、そして入社後の成功には不可欠であると、私の苦い経験は物語っています。