私の転職ブラックヒストリー

十分な情報共有なき着任が招いた、マネージャーとしての初期失敗談

Tags: オンボーディング, 中途入社, マネジメント失敗, 情報共有, 組織文化, 失敗談

はじめに:情報なき着任が招く落とし穴

転職を経て新しい組織にマネージャーとして着任する際、誰もが期待と同時に不安を抱くものです。これまでの経験を活かし、新しいチームや事業に貢献したいと意気込む一方で、未知の環境で成果を出せるかというプレッシャーも伴います。

しかし、その期待と現実の間に大きなギャップを生む要因の一つに、「オンボーディング(組織への適応支援)」の不足があります。特に中途入社のマネージャーにとって、必要な情報が適切に引き継がれないまま現場に放り込まれることは、その後のパフォーマンスに致命的な影響を及ぼしかねません。

本記事では、私自身が経験した、十分な情報共有とオンボーディングが欠如した環境でのマネジメント失敗談を赤裸々にお話しします。この経験が、読者の皆様が同様の失敗を避けるための「反面教師」となれば幸いです。

失敗の詳細:手探りの状態から始まったマネジメント

私が経験したのは、ある成長過程にある企業への転職でした。前職では一定の成果を上げ、その経験を買われて新しいポジションに就くことになりました。期待されていた役割は、既存事業の特定領域を強化するための新しいチームを立ち上げ、軌道に乗せることでした。

入社前には、事業計画の概要や期待される成果について説明を受け、自身の経験が活かせると感じていました。しかし、入社後に直面したのは、想像以上の情報不足と体制の未整備でした。

まず、正式なオンボーディングプログラムは、会社の歴史や理念といった一般的な説明に終始しました。私の役割やチームに関する具体的な情報共有は、前任者からの引き継ぎという形で行われる予定でしたが、その前任者は既に退職しており、後任への引き継ぎ資料はほとんど残されていませんでした。わずかに残された資料も断片的で、業務プロセスの詳細、既存顧客との関係性、過去のプロジェクトの経緯、チームメンバーのスキルや特性に関する情報は、ほとんどゼロに近い状態でした。

着任初日から、私は手探りでのスタートを強いられました。チームメンバーは私の着任を歓迎してくれましたが、彼らも「何をどこまで知っているか」が分からず、遠慮がちに接してくる状況でした。必要な社内システムへのアクセス権限が揃うまでに時間がかかったり、誰にどのような承認を得れば良いのか、どの部署と連携が必要なのかといった基本的な情報も、周囲に聞きながら都度確認するしかありませんでした。

このような情報不足は、マネージャーとしての私の意思決定に大きな影響を与えました。過去の経緯や背景知識がないため、チームからの相談に対して的確なアドバイスができなかったり、重要な判断を保留せざるを得なかったりしました。例えば、ある顧客との契約更新に関する判断を迫られた際、過去の交渉履歴や関係性を十分に把握していなかったために、誤った前提で臨んでしまい、結果的に顧客からの信頼を損ねかける事態に陥りました。また、チームメンバーの能力やキャリア志向についても、限られた情報で判断せざるを得ず、適切な役割分担や目標設定に苦労しました。

さらに深刻だったのは、非公式な組織文化や人間関係についての情報が皆無だったことです。社内のキーパーソンが誰なのか、部署間の非公式な連携ルールはどうなっているのか、過去にどのような失敗や成功があったのか。こうした「ウェットな情報」が手に入らないため、社内での根回しや調整がうまく進まず、必要な協力を得るのに想定以上の時間と労力を費やしました。結果として、チームの立ち上げや目標達成のスケジュールは大幅に遅延し、上層部からの期待に応えられない状況が続きました。マネージャーとしての自信を失い、孤立感を深めていくことになりました。

原因分析:情報の真空地帯が生まれた背景

なぜ、このようなオンボーディング不足が発生してしまったのでしょうか。その原因は複合的でした。

まず、会社側のオンボーディングプロセスの未整備が挙げられます。特に中途採用者、それもマネージャー職に対する体系的な受け入れ体制が構築されていませんでした。前任からの引き継ぎを個人に委ねる形式になっており、それが機能しなかった場合の代替手段やサポート体制が存在しなかったのです。これは、企業の成長スピードに対して、組織体制や管理プロセスが追いついていなかったことを示唆しています。

次に、情報共有文化の欠如も大きな要因でした。多くの情報が属人的に管理されており、ドキュメント化やデータベース化が進んでいませんでした。また、部署間の壁が高く、必要な情報がサイロ化している傾向がありました。このような文化では、外部から来た人間が必要な情報に自力でたどり着くことは極めて困難です。

私自身の問題もゼロではありませんでした。新しい環境に早く馴染もうと焦るあまり、必要な情報を体系的に整理したり、質問すべき相手を戦略的に見定めたりする冷静さを欠いていたかもしれません。また、「マネージャーなのだから自力で解決すべきだ」というプライドが、早期に助けを求めることを躊躇させた側面もあったように思います。

そこから得られた教訓:情報の価値を知り、能動的に動く

この失敗経験から得られた教訓は多岐にわたりますが、特に重要だと感じたのは以下の点です。

第一に、入社前の情報収集の徹底です。面接の段階で、オンボーディングプロセス、特に中途入社者への情報共有や引き継ぎ体制について具体的に質問しておくべきでした。前任者がいる場合は、引き継ぎの方法や期間、資料の有無などを確認することも重要です。組織文化や情報共有のオープンさについても、可能な範囲で探りを入れるべきでした。

第二に、入社後の能動的な情報収集と人間関係構築です。情報が与えられるのを待つのではなく、自ら積極的に取りに行く姿勢が不可欠です。具体的には、チームメンバー一人ひとりと丁寧に対話し、彼らが持つ情報や懸念事項を引き出すこと。社内のキーパーソン(部署の壁を超えて情報が集まる人、非公式なルールを知っている人など)を早期に見つけ、信頼関係を構築すること。そして、遠慮なく質問し、不明点をそのままにしないことです。

第三に、期待値の適切な管理とSOSの発信です。入社時に合意した期待役割と、実際の情報・リソース状況との間にギャップがあることを認識したら、早期に上司や関係者に現状を共有し、期待値の調整や必要なサポートを求めるべきです。「頑張れば何とかなる」と一人で抱え込まず、組織のリソースを活用することを考えるべきでした。

結論:オンボーディング不足は組織と個人の双方の課題

私の失敗は、会社側のオンボーディング体制の不備と、私自身の経験不足および対応の遅れが複合的に絡み合った結果でした。この経験から、中途入社のマネージャーにとって、十分な情報と適切なサポートなしに成果を出すことの困難さを痛感しました。

この教訓は、まさに反面教師となるでしょう。今後、皆様が新しい組織に転職される際には、入社前の情報収集と入社後の能動的な行動、そして組織への適切な働きかけが、成功の鍵を握ることを心に留めていただければと思います。特にマネージャーという立場では、自分自身のキャッチアップが遅れることが、チーム全体のパフォーマンスに直結します。情報の真空地帯を避けるための準備と覚悟を持って、新しいキャリアに臨んでください。