私の転職ブラックヒストリー

面接で見抜けなかった、非効率すぎる意思決定プロセスの落とし穴

Tags: 意思決定, 組織文化, 面接, マネジメント, 失敗談

導入:組織の生命線、意思決定プロセスの重要性

転職活動において、企業文化や組織構造は非常に重要な判断材料となります。特にマネージャー職として入社する場合、自身の成果だけでなく、チームや部門全体のパフォーマンスが問われるため、組織がどのように動き、どのように物事が決定されるのかを理解しておくことは不可欠です。しかし、この「意思決定プロセス」ほど、面接などの限られた情報収集では見抜くことが難しいものはありません。

私は以前の転職で、この意思決定プロセスの問題を軽視したために、入社後に大きな壁にぶつかり、プロジェクトは停滞し、マネージャーとして無力感を味わうこととなりました。本記事では、私の失敗経験を反面教師として、読者の皆様が同様の落とし穴を避けるためのヒントを提供できれば幸いです。

失敗の詳細:ビジネスを停滞させた意思決定の遅さ

私が転職した企業は、業界内では知名度も高く、事業内容にも将来性を感じていました。面接では、経営陣や担当役員は非常に論理的で、ビジネスに対する解像度も高く感じられました。当然、意思決定も迅速に行われるものだと期待していました。

しかし、入社後、現実は全く異なるものでした。新しいプロジェクトや方針転換が必要になった際、その承認プロセスに異常なほど時間がかかったのです。

具体的には、 * 一つの企画を通すために、無数の関係部署との非効率な調整が必要でした。部門間の責任範囲が曖昧で、互いにボールを押し付け合うような状況が頻繁に発生しました。 * 必要以上に多くの承認者が存在し、それぞれの承認者のボトルネックによって全体の進行が遅延しました。中には、形式的な承認に過ぎないにも関わらず、担当者の不在や多忙を理由に何日もプロセスが止まることがありました。 * 会議は非常に多かったのですが、目的が不明確であったり、事前準備が不十分であったりすることが常態化していました。議論が発散し、結局何も決まらないまま次の会議に持ち越される、という状況が頻繁に繰り返されました。 * 経営層への報告・承認ルートも煩雑で、必要な情報がスムーズに伝わらなかったり、一度承認を得ても別の会議で覆されたりすることもありました。

マネージャーとして、私はチームメンバーのモチベーションを維持することに苦労しました。彼らは意欲的に仕事に取り組もうとするのですが、意思決定が遅いために必要なリソースが得られなかったり、方向性が定まらなかったりするのです。「頑張っても無駄なのでは」という空気が漂い始め、チームの生産性は目に見えて低下しました。私自身も、外部との連携やステークホルダーへの説明に窮し、板挟みの状態でした。改善提案を試みましたが、組織文化として染み付いた「決められない体質」は容易には変わりませんでした。

原因分析:なぜ非効率な意思決定が起きたのか

この深刻な意思決定の遅延は、いくつかの要因が複合的に絡み合って発生していました。

まず、明確なオーナーシップと権限の不在が挙げられます。各プロジェクトやイシューに対して、最終的な意思決定責任を持つ人物や部門が曖昧でした。責任の分散は、意思決定を慎重にしすぎる傾向や、他部署への遠慮を生み出し、結果として誰も決められない状態を作り出していました。

次に、部門間のサイロ化と連携不足です。各部署が自己完結的に動き、横断的な情報共有や連携の仕組みが不十分でした。これが、一つの案件を進める際に非効率な部門間調整が必要となる原因となりました。

さらに、会議文化の構造的な問題もありました。多くの会議は、情報共有を主目的としつつも、明確なアジェンダやゴール設定がなされていませんでした。また、ファシリテーションを行うスキルを持った人材も不足しており、議論が迷走しがちでした。過去の失敗経験からか、リスク回避意識が強く働き、決定を先延ばしにする傾向も強かったように感じます。

そして、私自身の原因としては、面接における見極めの甘さがありました。私は事業内容や担当領域、一緒に働く人々の人柄といった点に重点を置いて情報収集を行いましたが、「組織がどのように動くか」「意思決定のプロセスはどうか」という、より構造的で動的な側面にまで踏み込んで質問し、情報を引き出すことができていませんでした。表面的な組織の説明や、理想論を聞き取るに留まっていました。

そこから得られた教訓:意思決定プロセスを見抜く視点

この失敗経験から得られた最大の教訓は、転職先候補の「意思決定プロセス」を可能な限り見極めることの重要性です。これは単に「決まるのが速いか遅いか」だけでなく、その「質」や「透明性」、「関与者」といった側面を含みます。

具体的に、次回以降の転職活動で活かせる反面教師としての学びは以下の点です。

  1. 面接での質問を工夫する:

    • 「過去に大きな方針転換や新規事業を立ち上げた際、どのようなプロセスで意思決定が行われましたか?」
    • 「部署を横断するプロジェクトは、どのように承認が進みますか?その際、ボトルネックになりやすい点は何ですか?」
    • 「重要な会議は、どのようなアジェンダで、誰が出席し、どのように結論が出されますか?その会議の頻度や所要時間は?」
    • 単なる説明を求めるだけでなく、具体的な事例や、そのプロセスにおける課題点・工夫している点を尋ねることで、よりリアリティのある情報を引き出せる可能性があります。
  2. リファレンスチェックを重視する:

    • 可能であれば、候補企業の関係者(現職または元社員)から、社内の意思決定や組織の動き方について情報収集を試みます。ただし、個人的な感情が多分に含まれる可能性もあるため、複数の視点から客観的に判断する必要があります。
  3. 組織図や役職名だけにとらわれない:

    • 公式な組織図や役職名だけでは、実際の権限構造や意思決定ルートは見えません。誰が実際に力を持っているのか、非公式な承認ルートは存在しないかなど、実態を探る努力が必要です。
  4. 企業文化との関連性を考える:

    • リスク回避的な文化、トップダウン志向、コンセンサス重視の文化など、組織文化は意思決定プロセスに深く影響します。面接での雰囲気や社員の言葉遣いから、こうした文化的側面を推測することも重要です。

結論:見えないプロセスこそ慎重な見極めを

意思決定プロセスは、企業の規模や歴史、業界特性などによって様々です。一概に「こうあるべき」と言えるものではありません。しかし、その非効率さは、ビジネスの機会損失に繋がり、働く人々の士気を低下させる大きな要因となり得ます。

特にマネージャー層にとっては、自身が介在し、時には改善をリードする必要があるため、入社前にその実態を可能な限り見極めることが、入社後の成功に大きく関わってきます。私の失敗経験が、皆様の今後の転職活動において、目に見えにくい組織の「動き方」という重要な側面への注意を喚起する一助となれば幸いです。