入社後、リモートワークで見失ったチームの兆候とマネジメントの失敗
導入:リモートワーク環境での「見えない」マネジメントの落とし穴
近年、働き方が多様化し、リモートワークやハイブリッドワークの環境で新たなキャリアをスタートさせるケースが増えています。しかし、特にマネージャーとして転職した場合、対面でのコミュニケーションが制限されるリモート環境は、新たな挑戦と同時に多くの落とし穴を含んでいることがあります。本記事では、私自身がリモートワーク中心の環境で転職後、チームメンバーの微細な変化や問題の兆候を見落とし、結果としてマネジメントに失敗してしまった経験を赤裸々に語ります。
この体験は、リモート環境下でのチームマネジメントの難しさ、特に転職者が直面しやすい課題を浮き彫りにします。私の失敗が、読者の皆様が同様の状況で同じ過ちを繰り返さないための「反面教師」となれば幸いです。
失敗の詳細:リモートの壁が生んだコミュニケーション不全
私が新しい会社にマネージャーとして入社したのは、パンデミックの影響で多くの社員がリモートワークを行っている時期でした。前職はほぼ対面での業務でしたが、新しい会社は先進的な働き方を推進しており、面接時もリモート環境での業務遂行能力が問われました。
入社後、私のチームメンバーとの対面機会は週に一度あるかないか、という状況でした。チームの規模はそれほど大きくありませんでしたが、メンバーの多くは以前からリモートで業務を遂行しており、オンラインでのコミュニケーションには慣れているようでした。私自身も、オンラインミーティングやチャットツールを活用し、積極的にコミュニケーションを取っているつもりでした。
しかし、数ヶ月が経過した頃から、チーム内の雰囲気に異変を感じ始めました。特定のメンバーからのチャットでの反応が遅くなったり、オンラインミーティングでの発言が減ったりしたのです。当時は「リモート疲れだろう」「一時的なものだろう」と軽く考えてしまい、具体的な状況の把握や深い対話を行いませんでした。
また、カジュアルな雑談や、会議の合間に交わされる非公式な情報交換が極めて少なく、メンバー間のちょっとした変化や、業務に関する懸念事項などが私の耳に入ってきにくい状況でした。オンラインでの1on1ミーティングは実施していましたが、メンバーは表面的な報告にとどまり、本音や抱えている課題について深く語ってくれることはありませんでした。私自身も、まだ新しい環境に慣れておらず、どこまで踏み込んで良いのか、どのような情報を引き出すべきか、手探りの状態が続いていました。
結果として、一部のメンバーのモチベーションは静かに低下し、業務効率が著しく落ちていきました。チーム全体の連携も徐々に悪化し、期初に設定した目標達成が危ぶまれる状況に陥ってしまいました。私は、この状況が表面化してから初めて事態の深刻さに気づき、慌てて個別面談やチームミーティングを重ねましたが、すでにメンバー間の不信感や諦めムードが蔓延しており、関係性を修復するのは困難を極めました。この時点で、私はマネージャーとしてチームを立て直す信頼と能力を失っていたのです。
原因分析:見えない環境での過信と、情報収集の怠り
この失敗の主な原因は、複数あります。
まず、最も大きかったのは、リモートワーク環境下でのマネジメントに対する認識の甘さでした。対面であれば、メンバーの表情や仕草、オフィス内の雰囲気など、多くの非言語情報からチームの状態を察知できます。しかし、リモート環境ではこれらの情報源が激減します。画面越しの限られた情報や、チャットの短いやり取りだけでは、メンバーの心の状態や抱えている課題を正確に把握することは極めて困難です。私はこの「見えない壁」の存在を十分に理解せず、「いつも通り」のコミュニケーションで大丈夫だと過信していました。
次に、転職者としての立場とリモート環境が相まって、情報収集と関係構築が阻害されたことも原因です。転職直後は、新しい組織の文化、人間関係、非公式なルールなどをキャッチアップする必要がありますが、リモート環境では意図的に行動しない限り、これらの情報が自然と入ってくることはありません。私は、メンバーとの信頼関係がまだ十分に構築されていない段階で、リモートの壁によってさらにその距離が広がってしまい、メンバーが私に本音を話しにくい状況を作ってしまいました。
さらに、マネージャーとしての私のスキル不足も否めません。リモート環境での効果的な1on1の実施方法、オンラインツールを活用した情報共有とチームエンゲージメントの向上策など、当時の私はリモートマネジメント特有の技術や心構えが不足していました。問題が起きているかもしれないという兆候に気づきながらも、それが深刻な事態に発展するまで具体的な手を打たなかった判断の遅さも、失敗を決定づけました。
企業側の要因としては、リモートワークを前提としたオンボーディングプログラムや、マネージャー向けの研修・サポート体制が不十分だったことも挙げられます。しかし、最終的にチームの責任を負うのはマネージャーである自分であり、環境のせいにすることはできません。私の不作為と準備不足が、この失敗を招いたのです。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び):リモートで「見える化」する努力を怠るな
この痛い失敗から、リモートワーク環境下でのマネジメントについて多くの教訓を得ました。これを反面教師として、次に活かすべき点は以下の通りです。
- 非言語情報を補う能動的な情報収集: リモートでは「見える」情報が少ないからこそ、意図的に「見よう」とする努力が必要です。オンラインでの1on1は単なる報告会ではなく、メンバーの心理的な状態、非公式な懸念、仕事へのモチベーションなどを引き出すための重要な場と位置付け、質問の仕方や傾聴のスキルを磨く必要があります。また、チャットのやり取りだけでなく、各メンバーのデジタル上の活動状況(会議への参加率、ドキュメントへのコメント頻度など)も、注意深く観察すべき情報となり得ます。
- 意図的な信頼関係構築: 転職直後のリモート環境では、対面以上の意識を持ってメンバーとの信頼関係構築に努める必要があります。仕事の話だけでなく、雑談や非公式なオンライン交流の機会を意識的に設けるなど、心理的な安全性を高める工夫が必要です。メンバーが「このマネージャーなら、リモートでも安心して本音を話せる」と感じられる関係性を早期に築くことが重要です。
- リモートマネジメント特有のスキル習得: リモート環境での効果的なコミュニケーションツール活用、情報共有の仕組みづくり、成果だけでなくプロセスや貢献度を適切に評価する手法など、リモートマネジメントに特化したスキルや知識を積極的に学ぶべきです。
- 問題の兆候を早期に察知する感度を高める: リモート環境では問題が表面化するまでに時間がかかることがあります。些細なチャットの頻度の変化、会議での発言量の変化、オンラインステータスの状況など、普段と違う「兆候」を見逃さない感度を高める必要があります。そして、少しでも異変を感じたら、手遅れになる前にすぐさま個別に対話の時間を設けるべきです。
結論:リモート時代のマネージャーに求められる新たな洞察力
リモートワークは今後も多くの組織で継続される働き方です。対面とは異なる「見えない」壁が存在することを理解し、そこから生じる情報格差やコミュニケーションの課題に真摯に向き合う必要があります。
私の失敗は、リモート環境でのマネジメントを安易に考え、情報収集と関係構築への努力を怠った結果です。特に転職者にとっては、新しい環境への適応に加えて、リモート環境特有の難しさも乗り越えなければなりません。
リモートワーク時代のマネージャーには、対面とは異なる観察力、コミュニケーション能力、そしてメンバー一人ひとりの状況を深く理解しようとする洞察力が求められます。私の失敗経験が、読者の皆様がこれらのスキルを磨き、リモート環境下でも信頼されるマネージャーとして成功するための反面教師となれば幸いです。