入社後に巻き込まれた組織内派閥争い。マネージャーとして機能不全に陥った失敗体験
はじめに
新たな環境でのマネージャー職への転職は、期待とともに多くの挑戦が伴います。特に、企業の組織文化や人間関係は、外部からは見えにくい要素であり、入社後に思わぬ落とし穴となることがあります。本記事では、私が経験した、入社後に組織内の派閥争いに巻き込まれ、マネージャーとして機能不全に陥ってしまった失敗体験を共有させていただきます。この経験が、読者の皆様にとって、転職先での組織文化や人間関係を見極める上での「反面教師」となれば幸いです。
失敗の詳細:派閥争いという見えない壁
私が転職したのは、ある業界で一定の地位を確立している中堅企業でした。面接時や入社前の情報収集では、組織は風通しが良いと聞いており、部門間の連携も円滑に行われているような印象を受けていました。しかし、入社して間もなく、社内には複数の明確な派閥が存在し、それぞれの派閥が対立関係にあることに気づかされました。
私が配属された部門は、ちょうど組織再編の影響を受けており、複数の異なるバックグラウンドを持つメンバーが集められていました。そのメンバーたちは、かつての所属部門の力関係や、特定の役員との個人的な繋がりを背景に、互いに牽制し合っている状況でした。
マネージャーとして着任した私は、まずチーム内の連携強化と、他部門との協力を推進しようとしました。しかし、あるメンバーが提供した情報が別のメンバーによって意図的に遅延されたり、ある会議での決定事項が特定の派閥に都合が悪いという理由で覆されたりする事態が頻発しました。他部門との連携も同様で、ある部門に協力を依頼すると、対立する派閥に属する別部門から露骨な非協力的な態度を取られる、といったことが常態化したのです。
私は当初、中立の立場を保ち、客観的な視点から業務を推進しようと努めました。しかし、この「中立」という態度が、どちらの派閥からも信用されないという結果を招きました。ある派閥からは「敵側についているのではないか」と疑われ、別の派閥からは「頼りにならない」と見なされるようになりました。情報も必要なタイミングで入ってこなくなり、意思決定の遅れや、誤った判断を招くことも増えました。
結果として、私のリーダーシップは著しく低下し、チームメンバーも誰の指示に従えば良いのか混乱するようになりました。業務は停滞し、目標達成は困難になり、マネージャーとして本来果たすべき役割を全く果たせない「機能不全」の状態に陥ってしまいました。この経験は、マネージャーにとって、良好な人間関係や組織文化がいかに重要であるかを痛感させるものでした。
原因分析:なぜ派閥争いを見抜けず、巻き込まれてしまったのか
この失敗の主な原因は、以下のいくつかの要因が複合的に作用したことにあると考えられます。
- 入社前の情報収集不足: 面接や企業公開情報だけでは、組織内の人間関係や非公式な力学を把握するのは極めて困難です。私は表面的な情報や、会社側から提供される情報のみに頼りすぎ、深く内部を知るための多角的な情報収集を怠りました。例えば、転職エージェント経由の情報だけでなく、可能であればその会社で働いたことのある第三者からの話を聞く、OB/OG訪問に近い形で現職または元社員と話すなど、より踏み込んだ情報収集を試みるべきでした。
- 企業のリーダーシップと文化の問題: 派閥争いが公然と行われ、業務に支障を来すレベルで放置されているということは、企業のリーダーシップが機能していない、あるいは意図的に対立を助長するような文化があることを示しています。私が入社を決める前に、組織の意思決定プロセスや、コンフリクトがどのように解決されているのかについて、もっと注意深く観察し、質問すべきでした。
- 自身の対応のまずさ: 派閥の存在に気づいた後、私が取った「中立」という態度は、結果として孤立を招きました。このような環境下では、中立を保つことの難しさや、どのように振る舞えば建設的な関係を築けるのかについての知見が不足していました。特定の個人や派閥に肩入れせずとも、多様な関係者との信頼関係を構築するための、より戦略的なコミュニケーションと立ち回りが必要でした。
- 組織構造上の曖牲: 組織再編直後であったこともあり、部門間の責任範囲や連携ルールが曖昧になっていました。これにより、派閥間の縄張り争いが助長され、業務を円滑に進めるための公式なルールが機能しにくい状況でした。構造的な問題を事前に把握し、業務推進上のリスクとして認識しておくべきでした。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び)
この苦い経験から、今後の転職活動や新たな組織でのマネージャー職に活かせる、いくつかの重要な教訓を得ました。
- 組織文化・人間関係に関する情報収集の徹底:
- 面接では、表面的な質問だけでなく、「社内で意見の対立が起きた場合、どのように解決されますか?」「部門間の連携で苦労することはありますか?」「非公式なコミュニケーションはどのように行われますか?」など、組織の人間関係や文化に関する具体的な質問を投げかけてみるべきです。
- 可能であれば、社員懇親会などに参加させてもらう、カジュアル面談で複数の社員と話す機会を設けてもらうなど、多様な立場の人と接点を持ち、組織の雰囲気を肌で感じ取ることが重要です。
- 転職エージェントからの情報だけでなく、社員レビューサイトやSNSなど、公開されている多様な情報を参照し、多角的に分析する視点を持つべきです。
- 意思決定プロセスと権限構造の確認:
- 誰が最終的な意思決定権を持つのか、どのようなプロセスで物事が決まるのか、部門間の意見の相違はどのように調整されるのかを明確に理解することが重要です。
- マネージャーとして与えられる権限の範囲と、責任の範囲が一致しているかを確認し、曖昧な点があれば事前に解消しておくべきです。権限なき責任は、まさに機能不全の温床となり得ます。
- 適応と関係構築の重要性:
- 入社後は、自身のこれまでの成功体験に固執せず、新しい組織のやり方や文化を理解しようと努める姿勢が不可欠です。
- 組織内のキーパーソン(正式な役職に関わらず影響力を持つ人物)を見極め、彼らとの信頼関係を築く努力が必要です。派閥が存在する場合でも、全ての関係者と敬意を持って接し、必要な情報にアクセスできるネットワークを構築することが、マネージャーとしての機能維持には不可欠となります。
- 問題発生時の早期対応とエスカレーション:
- 組織内の対立が業務遂行に支障を来し始めたら、一人で抱え込まず、信頼できる上司や人事に早期に相談・エスカレーションすべきです。問題が深刻化する前に、組織として介入してもらうことが、状況を打開するための重要な一手となり得ます。
結論:見えない組織リスクを避けるために
組織内の派閥争いのような、外部からは見えにくい人間関係の複雑さは、特にマネージャー職にとって、業務遂行を極めて困難にする要因となります。私の経験は、単なる個人の失敗ではなく、企業側の組織文化やリーダーシップの課題が引き起こした構造的な問題でもありました。
この失敗から学んだ最も大きな教訓は、転職先を選ぶ際に、事業内容や待遇だけでなく、組織の「見えない部分」である文化、人間関係、意思決定プロセスなどを、より深く、多角的に見極めることの重要性です。そして、もしそのような環境に入ってしまった場合でも、孤立せず、多様な関係者と連携し、組織として問題を改善していくためのアクションを早期に取る勇気を持つことです。
読者の皆様が、私の失敗を反面教師とし、より良い転職と、新しい環境での円滑なキャリア形成を実現されることを願っております。