鶴の一声で全てが覆される組織で、マネージャーとして無力感を味わった失敗体験
はじめに
転職を経て新たな組織に加わった際、私は大きな期待を抱いていました。しかし、ほどなくしてその期待は、上層部の不安定で予測不能な意思決定に打ち砕かれることになります。本日は、この「鶴の一声」に振り回される組織で、私がマネージャーとして直面した困難と、そこから得られた苦い教訓についてお話しいたします。この経験が、読者の皆様にとって、同様の状況を避けるための「反面教師」となれば幸いです。
失敗の詳細:上層部の朝令暮改が生んだ現場の混乱
私が転職したその会社は、ある程度実績のある中堅企業でしたが、意思決定プロセスには大きな課題を抱えていました。特に顕著だったのは、特定の役員による突発的かつ独断的な指示が、それまで時間をかけて準備・進行してきたプロジェクトや方針をあっさり覆してしまうという状況でした。いわゆる「鶴の一声」です。
私が担当していた部署でも、このような経験を何度もしました。例えば、新しいサービス開発に向けて、部下と議論を重ね、綿密な計画を立て、外部パートナーとの連携も進めていたにもかかわらず、会議で役員から出た「個人的な思いつき」のような一言で、これまでの方向性が全て白紙に戻される、といった具合です。
マネージャーとして、私は部下に対してプロジェクトの意義や今後の見通しを説明し、モチベーションを維持する責任があります。しかし、上層部の方針が頻繁かつ理不尽に変わるため、部下への説明は二転三転し、説得力を失っていきました。「また上の方針が変わったんですか」「一体何を信じて進めばいいんですか」という部下からの問いに、私自身も答えに窮するばかりでした。
これにより、現場の士気は著しく低下し、業務効率は悪化の一途を辿りました。計画が頓挫する度に、それまで費やした時間やリソースは無駄となり、新たな指示が出ても「またどうせ変わるだろう」という諦めムードが蔓延しました。マネージャーである私自身も、上層部の顔色を伺いながら指示を待つようになり、主体的な判断や長期的な視点でのマネジメントが困難になっていきました。自分の権限や責任の範囲内で状況を改善しようと試みましたが、組織全体の文化として意思決定の不安定さが根付いており、個人の力ではどうにもならない壁にぶつかったのです。この時、私はマネージャーとしてこれまでにない無力感を強く感じました。
原因分析:なぜ「鶴の一声」が横行したのか
この失敗の原因は、多岐にわたると分析しています。
まず、最も大きな要因は、企業全体のビジョンや戦略が曖昧であったことです。明確な羅針盤がないため、場当たり的な判断や、個人の感情、その時の外部環境の変化への過剰な反応によって、容易に方針が揺らいでしまう土壌がありました。
次に、意思決定プロセスにおける論理性と透明性の欠如です。重要な方針変更が、データや根拠に基づく議論を経ずに、特定の個人の独断で行われていました。意思決定に至る経緯や理由が現場に共有されないため、なぜ方針が変わったのか理解できず、納得感が得られませんでした。
さらに、異論や反対意見を許容しない企業文化も影響していました。上層部に対して率直な意見を述べることが難しい雰囲気があり、現場の状況や現実が経営層に正確に伝わらない構造になっていたのです。
私自身の反省点としては、入社前の情報収集や確認が甘かったことが挙げられます。面接では企業の将来性や事業内容に目が行きがちですが、意思決定のプロセスやスピード、経営層の考え方、現場への情報共有の状況など、組織内部の「質」に関する踏み込んだ質問が不足していたと感じています。また、知人やOB訪問などを通じた多角的な情報収集も、十分ではなかったかもしれません。
そこから得られた教訓(反面教師としての学び)
この苦い経験から得られた教訓は、今後の転職活動やキャリア形成において、非常に重要な示唆を与えてくれました。
最も大きな学びは、企業の「戦略」や「ビジョン」だけでなく、「意思決定の質」を徹底的に見極めることの重要性です。戦略が立派でも、それを実行に移すための意思決定プロセスが不健全であれば、絵に描いた餅に終わり、現場は疲弊します。面接時には、過去の重要な意思決定の事例や、そのプロセスについて具体的に質問を投げかけるべきでした。例えば、「過去に大きな方針転換はありましたか?その際、どのような議論を経て決定されたのでしょうか?現場にはどのように伝えられましたか?」といった質問は有効かもしれません。
また、経営層と現場のコミュニケーションの頻度や質も重要なチェックポイントです。上層部の考えが一方的に降りてくるだけでなく、現場の意見が吸い上げられ、意思決定に反映される仕組みがあるかを確認することは、「鶴の一声」が起きにくい組織かを見分ける指標となります。
そして、もし入社後に「鶴の一声」体質の組織だと判明した場合、マネージャーとしては以下の点を意識する必要があると感じました。 * 部下との丁寧なコミュニケーション: 方針転換の度に部下は混乱し、不安になります。理由が十分に説明できなくても、「今、このような状況だ」「自分はこう考えている」と、正直かつ丁寧に現状を伝える努力が不可欠です。 * 短期的な成果と長期的な準備のバランス: 方針が変わるリスクを織り込みつつ、短期的な成果を出すための柔軟な対応力と、いつか来るかもしれない安定期に備えた長期的な準備を並行して行う必要があります。 * 自身のキャリアプランの見直し: 組織文化を変えることは容易ではありません。自身の成長やキャリア目標と照らし合わせ、その組織に留まることが本当に最善かを冷静に判断することも重要です。
結論
上層部の不安定な意思決定は、組織全体の生産性や士気を低下させるだけでなく、マネージャーや現場のメンバーのキャリアにも深刻な影響を与えます。私はこの経験を通じて、企業の表面的な情報だけでなく、意思決定のプロセスや組織文化といった、より深い部分を見極めることの重要性を痛感しました。
転職活動においては、求人情報や面接官の言葉だけでなく、企業の意思決定の「質」を様々な角度から見極める視点を持つことが、失敗を避けるための重要な鍵となります。そして、もし同様の環境に身を置くことになったとしても、状況を冷静に分析し、部下とのコミュニケーションを大切にしながら、自身のキャリアにとって最善の選択をすることが求められます。
この体験談が、読者の皆様がより良い転職を実現するための一助となれば幸いです。