入社後に知った、成果より社内政治が優先される企業の現実とマネージャーの苦悩
成果主義への期待が崩壊した、入社後の厳しい現実
私はこれまでのキャリアにおいて、比較的成果が正当に評価される環境で働いてきた経験があります。そのため、転職先を選ぶ際も、透明性の高い評価制度と、個人の貢献が重視される文化を持つ企業を重視しておりました。面接の過程でも、先方は「成果主義を徹底している」「フラットな組織で、年次に関わらずチャンスがある」といった話をされており、私は大いに期待を抱いて入社を決意いたしました。特に、マネージャーとして部下の育成やチーム目標の達成に邁進できる環境だと確信しておりました。
しかし、実際に入社して数ヶ月が経つにつれて、面接時に描いていた理想とはかけ離れた現実があることに気づき始めました。それは、表面的な「成果主義」とは裏腹に、実際には社内政治や年功序列、特定の派閥への帰属が、評価や意思決定に大きな影響を与えているという事実でした。
成果を上げても報われない構造とマネージャーとしての無力感
私がマネージャーとして直面した具体的な問題の一つは、部下の評価でした。私のチームには非常に優秀で成果を上げている若手メンバーがいましたが、彼らの評価や昇進候補としての推薦を上申しても、「まだ年次が浅い」「〇〇さん(年上のベテラン社員)の面倒を見る必要がある」といった理由で、成果に見合わない評価しか得られない状況が散見されました。一方で、目立った成果がなくとも、社歴が長く上層部との関係性が深いメンバーの方が、相対的に高い評価を得ているように見受けられました。
また、組織内の重要な意思決定プロセスも、論理的な議論やデータに基づいたものではなく、非公式な根回しや力関係によって左右される場面が多々ありました。例えば、特定のプロジェクトの予算配分や人員配置が、プロジェクト自体の重要性や想定される成果よりも、発案者がどの派閥に属しているか、誰の意向が強いかによって決定されるといった状況です。会議の場では形式的な承認プロセスが踏まれますが、その前に既に非公式な場で大筋が決まっているということが常態化しておりました。
このような環境下では、マネージャーとして部下に正当な評価を与えることが難しくなり、チームメンバーのモチベーション維持に苦労いたしました。また、自身の成果目標達成に向けてチームを動かそうとしても、組織全体の非効率な意思決定プロセスや、成果とは異なる軸で評価される文化が足かせとなり、強い無力感を覚える日々でした。自身のマネジメント能力を問われているかのように感じ、精神的にも疲弊していきました。
失敗の原因分析:面接で深掘りできなかった組織の実態
この失敗の最も大きな原因は、私自身が面接の場で企業の「表面的な説明」を鵜呑みにしてしまい、組織の深層にある文化や実態を十分に把握できなかった点にあると考えております。先方は確かに「成果主義」を謳っておりましたが、それはあくまで理想論や、特定の部門でのみ限定的に適用されている可能性があったにも関わらず、その実効性や組織全体への浸透度を深く掘り下げて質問しませんでした。
また、企業の歴史や創業者の考え方、組織の構造的な問題(例えば、部門間の連携の悪さや縦割り意識の強さ)などが、現在の社内政治や年功序列の温存に繋がっている可能性にも、入社前に思い至りませんでした。評価制度についても、制度設計そのものよりも、それが現場でどのように運用され、どのような要素(成果、年次、社内での立ち位置など)が実際に評価に影響しているのか、具体的な事例を尋ねるべきでした。
さらに、可能であれば、入社前に現場社員や異なる階層の社員とカジュアルに話をする機会を設け、組織の非公式なルールや人間関係のリアルな状況を確認すべきだったと痛感しております。面接官は通常、採用における企業のポジティブな側面を強調します。しかし、その裏に隠された負の側面、特にマネージャー層が直面する可能性のある人間関係の難しさや、組織運営上の非合理性については、現場の生の声を聞かなければ見えにくいものです。
この失敗から得られた教訓:組織の「空気」を見抜く重要性
この苦い経験から得られた最も重要な教訓は、企業の「文化」や「人間関係」といった、数値化できない、あるいは公式には語られにくい側面を、可能な限り具体的に見抜こうと努力することの重要性です。特にマネージャーとして転職する場合、自身のパフォーマンスだけでなく、組織全体の風土や人間関係が、マネジメントの実行可能性に直結します。
今後の転職活動においては、以下の点を意識すべきだと学びました。
- 評価制度の「運用実態」を深掘りする: 制度そのものだけでなく、「具体的にどのような成果が、どのように評価に反映されるのか」「評価会議はどのように行われるのか」「年次や役職はどの程度影響するのか」といった、運用面について具体的な質問を投げかけるべきです。
- 組織の「非公式ルール」に目を凝らす: 会議の進め方、情報伝達の経路、意思決定のプロセスなどについて、具体的な事例を質問します。「もし意見が対立した場合、最終的にはどのように決定されますか?」といった問いかけも有効かもしれません。
- 様々な階層・部門の社員と話す機会を持つ: 可能であれば、マネージャー候補としてだけでなく、実際にその組織で働いている様々な立場の人々と話す機会を依頼します。ランチやカジュアル面談といった形式でも、公式な場では聞けないリアルな声に触れることができる可能性があります。
- 「成果主義」という言葉の定義を確認する: 企業が使う「成果主義」が、具体的に何を指しているのかを確認します。個人の定量的な成果なのか、チームの目標達成なのか、あるいはプロセスや定性的な貢献も含まれるのか、そしてそれがどのように評価に結びつくのかを明確にする必要があります。
結論:反面教師としての学びを次に活かす
期待した「成果主義」が形骸化しており、社内政治や年功序列が支配する組織に転職してしまった経験は、マネージャーとしてのキャリアにおいて非常に苦痛なものでした。しかし、この失敗を通じて、企業の表面的な情報だけでなく、その組織が持つ独自の文化や人間関係の構造、そして制度がどのように運用されているのかという「空気」を見抜くことの重要性を学びました。
今回の経験を反面教師として、今後のキャリア選択においては、より多角的な視点から企業を評価し、自身のマネジメントスタイルが活かせる、真に成果が評価される環境を見極める力を養っていきたいと考えております。この体験談が、読者の皆様が同様の失敗を避けるための一助となれば幸いです。